「従業員から休職したいとの申し出があった。」「主治医から『就労可能』との診断書が提出されたが、そのまま復職を認めても問題ないのだろうか。」
企業の人事・労務担当者であれば、このような場面に直面した経験があるのではないでしょうか。
近年は、精神疾患による休職だけでなく、がん治療や脳・心臓疾患、整形外科疾患などを理由とした長期療養も増加しており、傷病休暇・休職制度を利用する場面は決して珍しいものではありません。
一方で、法律だけでは結論を導くことができない問題が数多く存在します。
例えば、
- 主治医から「就労可能」と診断されたが、そのまま復職を認めてもよいのか
- 復職後は短時間勤務や業務内容の変更に応じなければならないのか
- 休職期間が満了しても復職できない場合、自然退職や普通解雇は認められるのか
- メンタルヘルス不調による休職者には、どこまで配慮する必要があるのか
このようなご相談は、当事務所にも数多く寄せられています。
企業には、社員が安心して療養できる環境を整え、適切なタイミングで職場復帰を支援することが求められます。安全配慮義務や労働契約法上のルール等を踏まえながら、企業として適切な労務管理を行わなければなりません。
例えば、十分な回復が確認できていないにもかかわらず復職を認めた結果、症状が再発し、安全配慮義務違反が問題となるケースがあります。反対に、復職できる可能性があるにもかかわらず十分な検討を行わず、休職期間満了を理由に自然退職や普通解雇の手続きを進めたことで、その有効性が争われるケースも少なくありません。
実務では、復職の可否や休職期間満了時の対応について、就業規則の内容だけで判断するのではなく、従業員の回復状況や担当業務の内容、復職後の就労可能性、さらに企業がどのような手順で検討を行ったかなど、個別具体的な事情を総合的に考慮することが重要です。そのため、「就業規則に書かれているから問題ない」「主治医が就労可能と言っているから復職させればよい」といった形式的な判断ではなく、適切なプロセスを踏んだ慎重な対応が求められます。
本記事では、労働問題に精通した弁護士が休職制度の基本的な仕組みから、復職判断に当たって確認すべきポイント、企業が避けるべき対応、休職期間満了時の考え方まで、企業実務において押さえておきたいポイントを分かりやすく解説します。
1|休職制度とは?企業が理解しておくべき基本事項
休職制度とは、社員が病気やケガにより一定期間就労できなくなった場合に、療養に専念する機会を確保しながら、雇用関係を一定期間維持するための制度です。
企業では広く導入されている制度ですが、労働基準法などの法律で一律に義務付けられている制度ではありません。多くの企業では、就業規則に休職制度を設け、その内容に基づいて運用しています。
そのため、
- 休職を命じることができる要件
- 休職期間
- 復職の要件
- 休職期間満了後の取扱い
などは企業ごとに異なります。
まずは自社の就業規則の内容を正確に把握、整備することが重要です。
休職期間中の賃金は支払われるのか
休職中の賃金についても、法律で一律に定められているわけではありません。多くの企業では、就業規則に「休職期間中は無給とする」と規定していますが、有給とするか無給とするかは、各企業の制度設計によって異なります。
もっとも、休職期間中に賃金が支給されない場合であっても、一定の要件を満たせば、健康保険から傷病手当金の支給を受けられる可能性があります。傷病手当金は、業務外の病気やケガによって就労できず、給与の支払いを受けられない場合などに支給される制度です。
支給要件や支給期間、支給額は健康保険法に基づいて定められていますが、加入している健康保険の種類によって手続きが異なる場合もあります。そのため、実際の申請に当たっては、全国健康保険協会(協会けんぽ)や健康保険組合へ確認するとよいでしょう。
2|休職制度で重要なのは就業規則
企業が休職を適切に運用する上で、重要なのは就業規則に定められた内容に沿って運用を行うことです。
例えば、
- どのような場合に休職を命じることができるのか
- 休職期間はどの程度か
- 復職するためにはどのような条件を満たす必要があるのか
- 休職期間が満了しても復職できない場合、どのように取り扱うのか
といった事項は、就業規則に明確に規定されていることが望まれます。
実際の労務トラブルでは、「就業規則に復職基準は定められていたものの、実際の運用が規定と異なっていた。」あるいは、「担当者ごとに判断基準が異なり、社員によって対応に差が生じていた。」といった点が争点となることも少なくありません。
裁判例においても、会社が就業規則をどのように運用していたかは、復職の可否や休職期間満了時の対応の適法性を判断する重要な要素の一つとされています。そのため、休職制度を設けている企業は、制度を整備するだけでなく、就業規則の内容に沿った適切かつ一貫した運用を行うことが重要です。また、法改正や社会情勢の変化、企業の実情に応じて就業規則を定期的に見直すことも、労務トラブルを未然に防ぐためには欠かせません。
💡ワンポイントアドバイス
実務上よくあるケースとして、就業規則で試用期間中の従業員を休職制度の適用対象から除外していないため、試用期間中の従業員に対しても、休職制度の利用を定めなければならなくなる事態が発生します。そのため、就業規則で試用期間中の従業員を適用対象外とするように設計することをおすすめします。
休職・復職対応のご相談は、早めの段階で弁護士へ
休職・復職の判断を誤ると、安全配慮義務違反や解雇無効など、会社に重大な法的リスクをもたらしかねません。一方で、必要な対応を先延ばしにすることも、本人の症状悪化や周囲の従業員の負担増につながるおそれがあります。
「復職を認めてよいか判断に迷う」「休職期間満了時の対応に不安がある」「自社の就業規則の休職規定を見直したい」など、判断に迷う場面では、できるだけ早い段階で労務に詳しい弁護士にご相談ください。制度設計や個別対応の初期段階から弁護士が関わることで、後のトラブルを大きく減らすことができます。
弁護士法人リーガル・パートナー法律事務所では、新潟県内の企業様を中心に、休職・復職対応をはじめとする労務トラブルのご相談に数多く対応しております。対応にお悩みの際は、お気軽にお問い合わせください。
この記事を書いた弁護士
上遠野 鉄也(かどの てつや)
弁護士法人リーガル・パートナー法律事務所 代表弁護士
新潟県弁護士会所属
使用者側の労務問題を数多く手がけ、新潟を中心に中小企業・医療機関の顧問を75社超務める。休職・復職対応や懲戒処分・問題社員対応など、労務問題の予防から解決まで、経営者の「参謀」として実践的な助言を行っている。
