【こんなお悩みはありませんか】
- 精神疾患で休職していた社員の休職期間が満了となったが、そのまま退職扱いにしてよいか不安がある
- 休職期間満了による退職・解雇が、後になって「無効」と判断されないか心配
- 自社の就業規則の休職規定が、そもそもメンタルヘルス問題に対応できる内容になっているか分からない
- 有期契約社員にも休職制度を適用すべきか判断がつかない
休職期間満了後の退職・雇止め処理は、退職金や解雇予告といった目に見える実務対応以上に、手続きの正当性が厳しく問われる場面です。
処理の進め方に不備があると、後日「解雇無効」「雇止め無効」として係争化し、バックペイ(未払賃金)の支払いなど大きな負担を強いられるおそれがあります。
本コラムでは、休職期間満了時の退職扱いにおける確認事項と、そもそもの休職制度の設計上の留意点を解説します。
目次
1|休職期間満了後に退職扱いとする際の確認事項
(1) 業務上の疾病か、私傷病かをまず確認する
精神疾患が業務上生じたものか私傷病かによって、適用されるルールが異なります。
- 業務上の場合:労働基準法19条1項の解雇制限が適用されます。療養のための休業期間中は解雇が制限され、治癒(症状固定)以後は解雇制限がなくなります。
- 私傷病の場合:就業規則所定の休職期間が経過しているかどうかがポイントになります。
(2) 私傷病休職について「復帰できない場合」の定めを確認する
まず、就業規則上、復帰できない場合の扱いが「自然退職」となっているかを確認してください。この規定が曖昧なままだと、退職扱いそのものの根拠が揺らぎます。
そのうえで、以下の3点のいずれかに該当する場合、復職を認めずに自然退職(あるいは解雇)とする処理は、正当でない(無効)と判断される可能性があります。
- 従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復したか
- 休職期間満了時、短期間(1か月〜3か月程度)猶予して軽作業を行えば復帰の見込みがあるか
- 現実的(常識的)な配転の範囲内で普通にこなせる業務があるか
つまり、「元の仕事は完全にはできないが、短期間の猶予や配置転換で対応可能」というケースでは、安易に自然退職・解雇として処理することはできません。
(3) 専門医の意見の裏付けを確保する
「就業可能」「就業可能(条件付き)」といった診断書等が出ていないかを必ず確認してください。こうした診断書が出ている場合の退職扱いは避けるべきです。専門医の意見という客観的な裏付けなく退職処理を進めることは、大きなリスクを伴います。
(4) 本人への意向確認・提案の記録化
本人に対して復職の意向確認や、軽易業務への転換等の提案・機会を与えたかどうかも重要な確認事項です。提案・機会を与えたことは書面で記録に残すことが望ましく、トラブルになった場合には、会社が合理的配慮をしていたことを示す有力な証拠となります。
2|そもそも就業規則の休職制度は「メンタルヘルス対応」を想定した内容になっているか
休職制度は就業規則に根拠を置く制度であり、「休業」「休暇」とは異なる概念です。
休職の要件・効果は就業規則の定めによって決まるため、就業規則の内容そのものが極めて重要になります。
以下の観点から、自社の規定を一度点検されることをおすすめします。
- 試用期間中の者にも適用される規定になっていないか
- 休職の要件が「引き続いて、欠勤…」という表現になっていないか。断続的な出勤・欠勤を繰り返すケースに対応できる規定になっているか(東京地裁平成20年12月19日判決も参照)
- 休職期間が通算される規定になっているか
- 休職期間中に病状等を報告させる規定になっているか(例:「休職期間中は、原則として、月1回、病状等の会社から求められた事項を報告しなければならない」)
- メンタルヘルス不調が疑われる者への受診命令の根拠を定めているか。採用時や年1回の健康診断のみの規定になっていないか
3|有期契約社員への休職制度の適用と雇止めの注意点
(1) パート・有期法との関係
無期契約社員に休職制度の定めを置いている場合、有期契約社員にも休職制度を設けていないと、パート・有期法上の不合理な待遇差にあたるおそれがあります。この場合、有期契約社員にも契約期間を踏まえて休職制度の取得を認めなければなりません。
ただし、休職の期間や賃金の有無について差があること自体は認められています。
パート・有期法は、短時間・有期雇用労働者の待遇と通常の労働者(いわゆる正社員)の待遇との間で不合理な相違を設けることを禁止しており、この「待遇」には私傷病による休職の適用も含まれる点に注意が必要です。
(2) 休職と雇止めの関係を明確にしておく
休職と雇止めの関係が就業規則等で明確になっているかも重要な確認ポイントです。規定例としては、「休職期間中に契約期間の満了日が到来したときは、その日の到来をもって休職は満了し、休職事由が消滅していない場合は退職する」といった条項が考えられます。
もっとも、更新を繰り返してきた契約社員が、今すぐには職場復帰できる見通しがなくとも、短期間で回復が期待できる場合には、雇用の継続に向けた一定の配慮が求められる点に留意してください。
雇止めには労働契約法19条により「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められます。この「社会通念上の相当性」を満たすためには、
- 契約更新の意向を当該社員に確認する
- 職場復帰の可能性を判断するため、主治医等の意見を確認する
といったプロセスを踏み、会社にとって過重な負担とならない範囲で契約更新について検討することが必要です。これらのプロセスを欠いた雇止めは、違法と判断される可能性があります。
まとめ
休職期間満了時の退職処理は、「規定があるから機械的に処理してよい」というものではありません。
- 1業務上か私傷病かを確認し、適用される解雇制限を確認する
- 2復帰の可能性(短期間の猶予・配置転換)を十分に検討する
- 3専門医の意見を確認し、本人への意向確認・提案を書面で記録する
- 4そもそも就業規則の休職規定がメンタルヘルス対応として十分な内容になっているか、有期契約社員への適用も含めて点検する
これらの対応を怠ると、退職・解雇・雇止めが無効と判断され、多額のバックペイの支払いや職場復帰対応など、会社にとって大きな負担が生じるおそれがあります。
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この記事を書いた弁護士
上遠野 鉄也(かどの てつや)
弁護士法人リーガル・パートナー法律事務所 代表弁護士
新潟県弁護士会所属
使用者側の労務問題を数多く手がけ、新潟を中心に中小企業・医療機関の顧問を80社超務める。メンタルヘルス対応・休職復職・懲戒処分・問題社員対応など、労務問題の予防から解決まで、経営者の「参謀」として実践的な助言を行っている。
